会社を設立する際には、その会社の事業年度をいつからいつにするのかを決めなくてはなりません。
会社は、その決めた事業年度末から原則2ヶ月以内に、法人税等や消費税の申告と納税を行う必要があります。
そして、個人事業主は1月1日から12月31日(暦年)が事業年度であり変更することはできませんが、会社の場合は自由に決めることができます。
では、具体的にどのように事業年度(決算期)を決めればよいのでしょうか。
事業年度はほとんどの会社は1年間としていますが、1年以内の期間であればよいので、たとえば6か月間ごとにしてもかまいません。ただこの場合、1年間に2回決算を行い申告も2回必要となってしまいますので、手間を考えて通常は1年間を事業年度としています。
日本では4月1日から3月31日までを事業年度としている会社が圧倒的に多いです。それは国や地方公共団体の会計期間や学校等の年度の区切りが同期間であることが影響しています。
税制改正についても、改正内容の適用が「○○年4月1日以降開始した事業年度より適用」などと規定されることが多いことから、それに合わせるように当期間を事業年度としている会社もあります。
4月1日から3月31日を事業年度とする会社は“3月決算”の会社と呼んでいますが、3月決算とするメリットは上記のように国等の予算編成や各種対策などとの適用が行いやすいという点が挙げられるのですが、だからといって3月決算にしなくてはならないわけでもなく、次のようなことを考慮したうえで、自社にとってもっとも良い期間を事業年度にしていただきたいと考えています。
1.資金繰りの観点から~
冒頭で書きましたが、会社は、事業年度末から2ヶ月以内に申告・納付を行わなくてはなりません。つまり3月決算の会社であれば、3月末からの2か月後の5月末までに法人税等や消費税の納付をしなくてはなりません。
利益が少額もしくは赤字であった場合には、利益(所得)に対して課税される法人税等の負担はあまりありませんが、消費税については赤字であったとしても通常は納税となることが多いため、その支払時期をいつに持ってくるかによって資金繰りに大きな影響を受けます。
したがって、これらの納税が下記の支払いと重ならないようにすることも一つの判断材料になってきます。
(1)源泉所得税(納期の特例にて半年に一度の納付としている場合)・・・1月、7月
(2)賞与・・・夏季(7月ごろ)、冬季(12月ごろ)
(3)労働保険料・・・7月
上記以外にも毎年同じ時期に大きな金額の支払いが発生する見込みがある場合には、その時期は避けるようにすることも検討します。
また、法人税等や消費税の納税時期を資金繰りに比較的余裕が持てる時期にするという意味では、その時期に売上の入金が多い時期を持ってくるというのも一つの考え方です。
具体的には、納税月の月初ごろにに比較的資金余裕があれば、月末の納税のときにも安心できますから、決算月やその前月の売上が比較的多い時期にするという判断もできます。
しかし、この場合、下記3.の決算対策の観点からは注意が必要となってきますので、その会社の業種や特性を考慮して総合的に判断するようにします。
2.消費税の免税メリットの観点から~
事業年度をどのように設定するかによって消費税の免除を受けられる期間も変わってきます。
会社設立時点で資本金の額が1,000万円未満の場合と、第2期の期首時点において同じく資本金の額が1,000万円未満でかつ設立1期目の期首から6か月間の売上または給与の額が1,000万円以下の場合には、それぞれ消費税の免除を受けることができます(消費税の免税事業者といいます)。
つまり、第1期については、資本金の額を1,000万円未満で会社を設立すれば免税事業者になりますが、第2期については資本金の額の条件のほかに前期(第1期)の期首から6か月間の売上または給与の額の条件も加わるため、もし第1期において期首から6か月間の売上と給与の額がともに1,000万円を超えてしまう可能性があるのであれば、この判定基準から原則対象外となる〝判定対象期間(前期)が7か月以下の場合”という条件をうまく利用して、第1期の事業年度の期間が7か月以下となるように事業年度を設定するということも一つの検討事項になってきます。
なお、第1期、第2期において大きな設備投資がある等により消費税の還付を受けたい場合にはこの限りではございませんが、そうではない場合には、第2期において免税事業者となれるかどうかは設立まもない会社にとって資金繰り上大きな影響がありますので注意しましょう。
3.決算対策の観点から~
決算対策の観点から考えてみます。
当事務所では、事業年度末の1か月前から2か月前にそれまでの損益の状況と期末までの見込みを見ながら、当期の利益の見通しをつけ必要な決算対策を検討・実行しています。
その場合、期末ごろに売上のピークが来る会社では決算の数字を見込むことがなかなか難しいのですが、売上のピークが期首から3か月ぐらいに来る会社では決算対策を検討する時点で年間の損益見込みが把握しやすいため、早い段階から決算の方向性を決めていくことができます。
ただし、この場合には、1.の資金繰りの観点とのバランスも考慮しつつ、必要に応じて納税資金等のプールを前もって行っておくなど、資金繰りへの配慮も必要となります。
4.営業戦略の観点から~
営業戦略の観点から考えてみます。
会社は、毎期その期の売上目標、利益目標を掲げて全社一丸となって目標に向かって営業活動等を行っていきますが、期末(決算月)は特に年間の売上目標達成を強く意識しますのでその度合いはさらに高まるかと思います。
そこで、期末に売上のピークを持ってくることによって、「目標達成に向けて頑張ろう!」という社内の雰囲気や各個人のモチベーションを高く維持できるメリットがあります。
なお、この観点から考えた場合には、3.の決算対策が行いにくいという部分はありますが、期末月前の経理処理を早めに締めて、可能な限り期末の売上を考慮したうえで決算対策を行っていきます。
5.経理処理事務手続きの観点から~
経理処理の事務手続きの観点から考えてみます。
月次処理(伝票整理、会計ソフトへの入力および試算表内容の確認等)を毎月行えている場合には問題ないのですが、たとえば経理処理を3か月に一度、半年に一度、もしくは1年に一度にしている(業界では年一決算と呼んでいます)場合には、決算の時期に売上の多い繁忙期を持ってきてしまうと、本業で忙しいうえに、3か月から1年分といった多くの期間の経理処理手続きも合わせて行っていかなくてはならないという、とても大変な時期となってしまう可能性があります。
したがって、経理処理をまとめて行っている会社については、決算の時期はできる限り時間的余裕のある時期にした方が良いでしょう。
6.業種の特性の観点から~
業種の特性の観点から考えてみます。
卸売業や小売業といった業種では販売するための商品等の在庫を一定数量保有して商売を行っておりますが、繁忙期を決算期にしてしまうと、期末時点における在庫が大量となり、在庫の実地棚卸作業がとても大変です。
したがって、このような商売をされる業種の場合には、いわゆる閑散期と言われている2月、8月を決算期に持ってきている会社もあります。これは棚卸作業の軽減の側面もありますが、さらに時間的な余裕から経理処理や決算作業も進めやすいという5.経理処理事務手続きの観点からも有効といえます。
以上のように、様々な観点から事業年度(決算期)の設定方法を検討してみました。
さまざまな観点を考慮するといつにしたら良いのか迷ってしまうかもしれませんが、大切なのは会社を経営していくうえで何を重要視し、何を優先して考えていくかということです。
当事務所では、会社設立の際に事業年度(決算期)をいつに設定するか、上記のさまざまな観点をご説明しながらその会社にとってベストな事業年度(決算期)を一緒に考えていきます。
事業年度(決算期)の決め方に悩まれた場合にはお気軽にご相談ください。
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