会社を設立するメリットその4では、今まで見てきた点以外で考えられる会社設立のメリットについて、税金面や経費面以外の部分も含め検討してみます。
1.事業年度を自由に設定できる
個人事業の場合には、事業年度はその年の1月1日から12月31日と決まっています。しかし会社の場合には、以前のコラムでも若干触れましたが自由に事業年度を設定することができます。
事業年度を設定するにあたっては、期首に売上が好調となる月をもってきた方が節税対策が行いやすかったり、資金繰りも税金の納税等の時期を考えてもスムーズにいきやすいと思います。
2.欠損金の繰越期間が長い
個人事業の場合には、青色申告をすることによって赤字となった年分の損失(欠損金)を3年間繰り越して黒字が出た年分の利益(所得)と相殺できる制度(青色欠損金の繰越控除制度)がありますが、会社の場合には、この繰越期間が9年間と長いため資本投下から回収までのサイクルを個人事業よりも長期的なサイクルで考えることができます。
ただし、資本金が1億円超の会社等は相殺限度額が所得の金額の80%相当額に制限されます。
なお、会社の場合には、翌年以降の利益(所得)との相殺だけでなく、当事業年度が損失であった場合には前事業年度の利益(所得)と相殺して相殺分の税金について還付を受けることができる制度(青色欠損金の繰戻還付制度)があります。この制度は資本金が1億円以下の会社等に適用があります。
ただし、この制度を使用した場合には税務署長は欠損金額等についての調査を行ったうえで還付の可否を判断するとされていますのでご留意ください。
3.社会的信用力が高く信頼が得やすい
会社を設立するためには、設立登記手続き等の手間・費用がかかっていることもあり、個人事業者に比べて社会的信用力は高いです。
たとえば、金融機関から事業用資金を調達したいときには個人事業者より会社組織の方が調達しやすいですし、従業員を採用したいときなどにも良い人材を採用しやすいと言えます。
4.有限責任である
個人事業者の場合には、もし事業に失敗してしまったときには、その時点における借入金や買掛金、未払金といった債務についての全責任を事業主が負担しなければなりません(無限責任といいます)。
会社(合名会社、合資会社と呼ばれる持分会社は除きます)では、その会社株式の出資額を上限とする
有限責任で済みます。
ただし、借入金については代表者が連帯保証することが多いため、その場合には保証している債務については有限責任の対象とはなりません。
5.出資を募ることできる
個人事業者の場合には、個人の資金や借入金で事業を進めることになり事業用資金が不足したときには銀行等からの借入を検討することになりますが、会社の場合には、出資という形で第三者からの資金を募ることができます。ビジネス展開において追加資金が必要となったときの選択肢の一つとできます。
ただし、出資者には株主としての権利(株主総会における議決権など)が与えられ、その出資割合によって会社経営にも影響を及ぼすことがありますので注意が必要です。
たとえば、出資割合が1/2超の場合には株主総会での普通決議の可決権限を有しますし、過半数に満たなくても1/3以上を取得した場合、株主総会での特別決議の否決権限を有することとなります。
したがって、第三者からの出資を検討する際には、出資割合にもよく注意して検討することが必要です。 基本的には、出資割合は1/3未満にしておくべきだと考えます。
なお、発行する株式の議決権を制限し、その代わりに剰余金の配当に関して優先権を付ける株式(一般的に議決権制限種類株式といわれているもので、種類株式の一つです)を発行することができます。出資者の中には会社からの経済的利益(配当)を得ることが目的で、株主総会での議決権の行使には興味がない方もいます。会社側にとっても会社の支配関係には影響を与えない形での資金調達が可能となります。
ただし、このような種類株式を発行するには、その旨を定款に定めることが必要です。
6.相続対策や事業承継対策が行いやすくなる
個人事業者において事業の相続や承継を考えた場合、たとえば相続財産に占める事業用財産の割合が大きかったときには、複数の相続人がいる場合、相続によりその事業用財産が各相続人に分散されてしまう等、事業の承継が困難になる可能性があります。
また、個人事業者に相続が発生した場合、事業用資産はあくまでもその個人事業者である被相続人の個人財産であるため、各資産についての名義変更が必要となるだけでなく、たとえば事業用の預金口座についても遺産分割協議後の名義変更手続き前では資金の引き出しができなくなり、その結果、事業の資金繰りに窮してしまう可能性もあります。
会社を設立した場合には、事業用の資産および債務はすべて会社所有となり、代表者(旧個人事業者)はその会社株式を所有することとなります。
そのため、たとえば相続が発生した場合、事業を承継させたい相続人へ遺言により会社株式を取得させたり、事業承継予定者に早めに株式の生前贈与を行っておくという対策も可能となります。
また、相続後の事業継続についても口座凍結によって資金繰りに窮するといったこともなく、また事業用資産の売却や、後継者不在の場合の事業自体の売却といった手続きもスムーズに行うことが可能です。
後継者への代表者変更手続きについても、役員変更登記という比較的簡単な手続きによって行うことができ、この点もメリットと言えるでしょう。
なお、相続対象となる会社株式については、後継者へのスムーズな移転を支援する趣旨で、相続や贈与による移転の際の相続税や贈与税の納税猶予制度(非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予の特例)があります。
現行法では、利用条件が非常に厳しかったため利用する会社が少なかったのですが、平成25年税制改正により条件の緩和が行われる予定ですので、会社株式の相続や贈与にともなう税金対策に活用できるかどうかも合わせて検討する必要があります。
以上、会社設立のメリットの大要について何回かに分けて書いてきました。参考にしていただければと思います。
なお、会社設立によるデメリットもあるため、総合して検討する必要があります。デメリットについては次回以降で触れていきたいと思います。
コメントをお書きください